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目的地は、福島県内だった。郡山駅までは特急電車に乗った。


家族で出かけること自体が少なかった上に、酒乱男は車に乗ることが好きで自分で所有していないにも関わらず

たまの遠出の時には友人あたりから借りてきて、それに家族全員を乗せていた。

そのため、特急電車に乗った記憶がない。


毒母は

「あんたがもっと小さい頃にはあちこち出かけた。特急も乗った。」

と言うが、小学3年生よりももっとチビだった頃のことなど、記憶に残っているはずが無い。

恐らく幼稚園に上がる前のことなのだ。


緊張して特急に乗っていると、近くの席に座った中年の女性がみかんをくれた。

どんな会話をしたのか、みかんの味がどんなだったのか、記憶は曖昧だったがその間だけはうっかり寝てしまうこともないし、

行き先を尋ねてくれたので、油断して寝てしまってもその女性が起こしてくれるような気持ちになっていたことが思い出される。


到着の翌日に五色沼へ出かけたが、宿泊施設からさほど遠くなかった記憶があるので猪苗代や裏磐梯辺りだったのだろうか。

郡山駅から更に電車に幾駅か乗った気がするのだが、もう忘れてしまった。


最後は宿泊施設の近くを通る路線バスに乗った。

もうこのぐらいになると緊張も続かず疲れきっていて、はずみでバスの中で眠り込んでしまった。


はっと目が覚めて車窓から辺りを見渡すと、建物があるかも怪しいような山道を進んでいるように見えた。

いくつかバス停を過ごしてから、自分が乗り過ごしたのだと思い込んだ。


意を決して妹とバスを降りる。

こちらが慌てるとまだ幼い妹は、不安から騒いでしまうだろう。

責め立てられると結局はこちらがダメージを受けるのは経験上よく分かっていたので、極力冷静に見えるように振舞った。


バスは坂道を登っていた。

バス停を降りてどれくらいのタイミングで人に会ったのか覚えていないが、乗り過ごしたのではなく降りるべきバス停より1つ2つ

早く降りてしまったことに気が付いた。

一本道だということもわかり、都内のバス停の1つ2つの感覚で山道を登っていった。

車が通る道で、舗装もされているので足元が悪くて歩きにくいということはなく、ただ左手に迫る林と道の境目の草むらに

百合がいくつも咲いているのに気をとられていた。


バス停を降りてから1時間以上歩いたのかもしれない。

へとへとになって目的の宿泊施設にたどり着くと、女将さんと毒母がなにやら話しかけてきたが、もうどうでも良かった。


特に毒母が何か言っていたが、車しか通らないような道では公衆電話もあるはずがない。

連絡も無く夕食の時間に遅れて到着したので、気を揉ませたのだろうとは思う。

でもこの日一番気疲れしたのは、幼稚園児を連れた小学3年生に違いないのではないだろうか。

普段は割と素直に何でも聞き入れる私が、もう何も聞きたくないと布団にもぐりこんだのだった。

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みゅきつ

Author:みゅきつ
ずっと思っていた「言葉で表現すること」へのチャレンジの第一歩としてこのサイトを立ち上げることにしました。

考え事をしながら部屋の天窓を振り向いたら、夜が見えました。

何と無く笑われた気がしました。優しい微笑みなのか、意地悪な微笑みなのか。

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